なくした足音を探すように
優しいあなたはきっとそれがわたしのためだと思って
勝手にそう思って
だから
切れたワインを探しに角のお店まで走るように
時計の針がたいして動かないうちに戻るかのように
手触りのいいビロードでわたしを包んだまま
下手な気遣いをしていなくなったのね
優しいあなたはわたしの手元に大層値の張りそうな一枚の絵を残して
見飽きるまでたっぷり時間があると言い含めて
安い嘘に満足すると思っていたのね
優しくて独りよがりなあなたはそのあとわたしがどうするかなんて
考えもしなかったでしょう
ずっと待っているのよ
仕返しをする少女のように かわいそうな人がいつも泣いていると
風の噂が優しいあなたの耳元でささやけばいいと冷たく笑いながら
ずっと待っているのよ
本当のわたしの姿らしきものは いったいどこを彷徨っているのかしらね
そうしてしまったのは
優しくて独りよがりなあなたの慈悲深さよりも
自分の値打ちにおかしなラベルを貼ったひもじいわたし自身だと
とっくに気が付きながらまだ 足音のするほうを見つめているなんてね
用意するのは空のワイングラス
滑稽だわ